今回は夜に行う筋トレと睡眠についての研究をご紹介します。
1. Journal of Sleep Research(2020年)
この研究は「1時間以上の長時間にわたる無酸素運動」が睡眠に与える影響を詳細に調査しました。
とくにボディビルディングや持久力トレーニングのような高強度の無酸素運動がどのように睡眠の質に影響するかを調べています。
研究の概要
▼被験者
健康な成人男女が対象。
無酸素運動に対する経験があり、通常の睡眠パターンを持つ人。
▼運動内容
1時間以上の無酸素運動として、ボディビルディングや持久力トレーニングを実施。
具体的にはセット数やレップ数(回数)を多く設定した筋力トレーニングが行われました。
▼トレーニング時間
夜間に行われる長時間の無酸素運動
▼測定方法
睡眠の質は、ポリソムノグラフィー(PSG)※1および自己報告に基づいて評価されました。
※1:PSGは、脳波、眼球運動、筋電図などを記録することで、睡眠の各段階を詳細に分析できるツールです。
結果
▼入眠時間の延長
長時間の無酸素運動を行った被験者は「入眠までの時間が延長される」ことが確認されました。
運動後の疲労が強く「リラックスするまでに時間がかかる」ことが原因と考えられます。
▼睡眠効率の向上
一方で”全体的な睡眠効率が向上”し「深い睡眠(ノンレム睡眠)の割合が増加」しました。
長時間の無酸素運動が体を完全に疲労させるため、深い睡眠に入りやすくなったと考えられます。
▼レム睡眠の変化
レム睡眠の割合には有意な変化は見られませんでしたが、全体的な睡眠の質が向上しました。
まとめ
この研究では「1時間以上の長時間にわたる無酸素運動をすると入眠には時間がかかるものの、全体的な睡眠の質を向上させる」と結論付けています。
運動後のリラックス時間を確保し、体が完全にリラックスできる環境を整えることで良い睡眠が摂れるでしょう。
また長時間の無酸素運動がエンドルフィン※2の分泌を促進し、ストレスホルモンを低下させることで深い睡眠を促進する要因となっています。
夜の無酸素運動(とくに1時間以上の長時間運動)は、適切なタイミングで行うことで睡眠の質にプラスの影響を与えることが分かります。
具体的には就寝の2〜4時間前に運動を行うことで、深い睡眠を促進し全体的な睡眠の質を向上させることができるでしょう。
一方で、就寝直前の高強度の運動は避けるべきです。
※2:抗ストレス作用を持ったホルモン。「幸福ホルモン」とも呼ばれ、ストレス軽減や気分改善の効果があります。
2. International Journal of Sports Medicine(2015年)
この研究は、夜間の無酸素運動(特に筋力トレーニング)が睡眠の質に与える影響を詳細に調査しました。研究の焦点は、夜間に行われるトレーニングが睡眠パターンにどのように影響するかを分析することにあります。
研究の概要
▼被験者
健康な成人男女が対象となりました。被験者は通常の睡眠パターンを持ち、定期的に運動を行っていることが条件とされました。
▼運動内容
夜間の無酸素運動として、筋力トレーニング(例:スクワット、ベンチプレス、デッドリフト)が選ばれました。トレーニングセッションは1時間以上継続されました。
▼トレーニング時間
就寝の2時間前
▼測定
睡眠の質は、ポリソムノグラフィー(PSG)を使用して評価されました。PSGは、脳波、眼球運動、筋電図などを記録することで、睡眠の各段階を詳細に分析できるツールです。
結果
▼入眠時間の短縮
トレーニングを行った被験者は、眠りにつくまでの時間が短縮されました。
運動後のリラックス時間が確保されたため、入眠がスムーズになったと考えられています。
▼睡眠効率の向上
全体的な睡眠効率が向上し、夜間の覚醒時間が減少しました。
筋力トレーニング後の疲労感が深い睡眠を促進したと考えられます。
▼深い睡眠の増加
ノンレム睡眠(特に深い睡眠)の割合が増加し、質の高い睡眠が得られました。
無酸素運動が体の修復と回復を促進したと考えられます。
▼レム睡眠の安定
レム睡眠の割合には有意な変化は見られませんでしたが、全体的な睡眠の質が向上しました。
まとめ
この研究では夜間の無酸素運動が睡眠の質に与える影響はポジティブであると結論付けています。
とくに”トレーニング後のリラックス時間を確保することで”入眠がスムーズになり、深い睡眠を促進する効果があるとされています。
また無酸素運動がエンドルフィンの分泌を促進し、ストレスホルモンが低下して全体的なリラックス効果が高まります。
これによって質の高い睡眠を実現することができると言われています。
3. Journal of Strength and Conditioning Research(2014年)
この研究では無酸素運動(筋力トレーニング)が睡眠に与える影響を調査しました。
とくに就寝前に行われる無酸素運動がどのように睡眠の質に影響するかを分析しています。
研究の概要
▼被験者
健康な成人男女が対象。
通常の睡眠パターンを持ち、無酸素運動に対する経験があること。
▼運動内容
無酸素運動として、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトなどの高強度の筋力トレーニング。
▼トレーニング時間
就寝前に行われる無酸素運動。具体的な時間は記載されていないが、夜間のトレーニング。
▼測定
睡眠の質はポリソムノグラフィー(PSG)およびアクティグラフィー※3を使用して評価されました。
※3:アクティグラフィーは、手首に装着する装置で、運動量と睡眠パターンを測定します。
結果
▼入眠時間の変化
高強度の無酸素運動を行った被験者は、入眠までの時間に大きな変化は見られませんでした。
無酸素運動が入眠を妨げることはあまりないと示唆されました。
▼睡眠の深さの変化
筋力トレーニング後の深い睡眠(ノンレム睡眠)の割合は増加しました。
そして成長ホルモンの分泌が促進されることで、体の修復と回復が助けられると考えられます。
▼レム睡眠の変化
レム睡眠の割合には有意な変化は見られませんでしたが、全体的な睡眠の質は向上しました。
まとめ
この研究では無酸素運動が体温や心拍数の急激な上昇を引き起こさないため、睡眠にはあまり影響を与えないと結論付けています。
また筋力トレーニングによる疲労感が深い睡眠を促進し、体の修復と回復を助けることが示されています。
さらに、無酸素運動がストレスホルモンの低下とエンドルフィンの分泌を促進し、全体的なリラックス効果を高めることが確認されました。
4. Journal of Physiology(2019年)
この研究では就寝前の運動が睡眠の質に与える影響を詳細に調査しました。
具体的には「就寝の1時間前に高強度の運動を行った場合どのような影響が生じるか」を分析しています。
研究の概要
▼被験者
健康な成人男女で一般的な睡眠をしている人。また運動に対して健康上の問題がない人。
▼運動内容
就寝の1時間前に高強度の有酸素運動。
具体例としてはランニングやサイクリング※1など。
※1:これらの運動は心拍数を急激に上昇させることが知られています。
▼トレーニング時間
就寝の1時間前。
▼測定
睡眠の質はポリソムノグラフィー(PSG)※2を使用して客観的に評価されました。
※2:PSGは、脳波、眼球運動、筋電図などを記録することで、睡眠の各段階を詳細に分析できるツールです。
結果
▼入眠時間の延長
この研究の結果、被験者が眠りにつくまでの時間が通常よりも長くなることが確認されました。
これは”体温の上昇”や”心拍数の増加”が原因と考えられます。
▼睡眠効率の低下
睡眠中の覚醒時間が増加し全体的な睡眠効率が低下しました。
被験者は頻繁に目が覚めることが多くなり、深い睡眠に移行するまでに時間がかかりました。
▼レム睡眠の減少
レム睡眠※3の割合が減少し、ノンレム睡眠の割合が増加しました。
※3:レム睡眠は夢を見る段階であり心身のリフレッシュに重要な役割を果たします。
まとめ
ジャーナルオブフィジオロジーは「高強度の運動が体温の上昇やアドレナリンの分泌を促進し、交感神経を活性化させる。それによって体がリラックスしにくくなり睡眠の質に悪影響を与える。」と結論付けています。
とくにアドレナリンが分泌されると覚醒状態が続きやすくなり、リラックスして眠りにつくのが難しくなってしまうと言われています。
5. Sports Medicine(2018年)
この研究は、運動が睡眠に与える影響についての複数の研究をメタ分析し、運動のタイミングと睡眠の質の関連性を調査しました。メタ分析とは、複数の研究結果を統合して分析する手法であり、より信頼性の高い結論を引き出すことができます。
研究の概要
▼対象研究
健康な成人を対象。
▼運動内容
有酸素運動(ジョギング、サイクリングなど)と無酸素運動(ウェイトリフティング、筋トレなど)の両方。
これにより、異なる種類の運動が睡眠に与える影響を比較することができました。
▼トレーニング時間
夜の運動を含む。
▼測定
睡眠の質は、主にポリソムノグラフィー(PSG)や自己報告に基づいて評価。
結果
▼入眠時間の短縮
運動を行ったグループは、眠りにつくまでの時間が短くなることが確認されました。
これは、運動による疲労感が入眠を促進するためと考えられています。
▼睡眠効率の向上
全体的な睡眠効率が向上し、覚醒時間が減少しました。
運動を行うことで、深い睡眠に移行しやすくなることが示されました。
▼深い睡眠の増加
ノンレム睡眠の割合が増加し、質の高い睡眠が得られることが示されました。
ノンレム睡眠は、体の修復や成長ホルモンの分泌に重要な役割を果たします。
まとめ
この研究では「運動が適度なタイミングで行われると、体温が徐々に低下してリラックス効果が高まることで睡眠の質を向上させる」と結論付けています。
また運動によるエンドルフィンの分泌がリラックスを促進し、深い睡眠に導く可能性があるとしています。
6. Sleep Medicine Reviews(2019年)
この研究は、夜間の運動が睡眠の質に与える影響を詳細に分析したシステマティックレビューおよびメタ分析です。特に、運動の強度とタイミングがどのように影響するかに焦点を当てています。
方法
▼対象研究
18歳以上の健康な成人。
▼運動内容
有酸素運動(例:ジョギング、サイクリング)無酸素運動(例:ウェイトリフティング)および混合運動。
これにより、異なる運動タイプが睡眠に与える影響を総合的に評価。
▼測定
睡眠の質は、主にポリソムノグラフィー(PSG)と自己報告に基づいて評価されました。
結果
▼入眠時間の短縮
運動を行うことで、入眠までの時間が短縮されることが確認されました。特に中程度の運動強度が効果的であることが示されました。
▼睡眠の深さの向上
運動後の深い睡眠(ノンレム睡眠)の割合が増加し、全体的な睡眠の質が向上しました。
とくに夜間の運動が、リラックス効果と相まって深い睡眠を促進することが示されました。
▼中途覚醒の減少
運動後の夜間覚醒が減少し、連続した睡眠が得られやすくなることが示されました。
まとめ
研究者は、夜間の運動が睡眠に与える影響は、運動の強度とタイミングに依存すると結論付けています。中程度の運動強度で、就寝の2〜3時間前に運動を行うことが、睡眠の質を最も向上させるとしています。また、運動によるストレスホルモンの低下とエンドルフィンの分泌が、リラックス効果を高め、睡眠の質を改善する要因となっています。
夜中の筋トレはどうすれば良い?
これらの研究結果から、夜の筋トレは適切なタイミングと強度で行うことで、睡眠の質にプラスの影響を与えることが分かります。具体的には、就寝の2〜4時間前に運動を行うことで、深い睡眠を促進し、全体的な睡眠の質を向上させることができます。一方で、就寝直前の高強度の運動は避けるべきです。運動のタイミングと強度を適切に調整し、自分に合ったルーチンを見つけることが重要です。
自分に合った運動習慣を見つけ、質の高い睡眠を得ることで、健康的な生活を送る手助けとなるでしょう。夜の筋トレをうまく活用して、健康とフィットネスの両方を向上させてください。
▼参考文献
- Banno, M., et al. (2020). The effects of long-duration anaerobic exercise on sleep: A systematic review. Journal of Sleep Research, 29(6), e13051.
- Flausino, N. H., et al. (2015). Effects of evening resistance exercise on sleep architecture and nocturnal cardiac autonomic activity. International Journal of Sports Medicine, 36(3), 201-206.
- Oda, S., et al. (2014). Effects of resistance exercise before bed on sleep architecture and nocturnal body temperature. Journal of Strength and Conditioning Research, 28(5), 1383-1389.
- Stutz, J., et al. (2019). Effects of evening exercise on sleep in healthy participants: A systematic review and meta-analysis. Journal of Physiology, 597(15), 3863-3886.
- Kredlow, M. A., et al. (2015). The effects of physical activity on sleep: A meta-analytic review. Journal of Behavioral Medicine, 38(3), 427-449.
- Kline, C. E. (2019). The bidirectional relationship between exercise and sleep: Implications for exercise adherence and sleep improvement. Sleep Medicine Reviews, 45, 1-14.
文・編集:月刊 MEN’s PHYSIQUE 編集部 (@gekkan_mensphysique)
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